郵便局の地方創生

地域に根ざす郵便局が行なっている様々なサービスや取り組みをご紹介します。

郵便局と駅の融合!窓口業務の一体化の取り組み

千葉県
江見駅郵便局 若月功一局長


無人駅になることによる不安を郵便局が解消

JR内房線は千葉市(蘇我駅)と鴨川市(安房鴨川駅)を結び、房総半島の東京湾沿いを走ります。安房鴨川駅に近い江見駅で、2020年8月から日本初の新たな試みが始まりました。日本郵便株式会社と東日本旅客鉄道株式会社が結んだ「地域・社会の活性化に関する協定」に基づき、郵便局で駅窓口業務の一体的な運営を行う「江見駅郵便局」が誕生したのです。

開局式のテープカットの模様

江見駅郵便局の前身である江見郵便局は、開局から140年にわたりまちのユニバーサルサービスの拠点として親しまれてきました。けれどもこれまで使われてきた局舎が老朽化し、改築の必要に迫られていました。一方で江見駅は、車社会の定着により鉄道の利用客が急減し、直近では1日あたり80人ほどに落ち込んでいました。そのため2019年7月には無人駅になっていました。“駅に人がいない”ことはサービスの低下や施設等の維持にも支障が生じることになり、利用客だけでなく住民の方々にも、そして駅を運営する鉄道会社にとっても不安要素になります。

そこで江見駅の敷地に江見郵便局を移転する形で両社のコラボレーションが実現しました。入口には江見駅と郵便局の看板が取りつけられ、郵便局のロビーには電車を待つ人と、貯金や郵便などの手続きを待つ人が一緒に待つことができます。平日9時から16時であれば、郵便局の貯金や保険の業務だけでなく乗車券や自由席特急券などを購入したりSuicaなどの交通系ICカードにチャージしたりできます。郵便局の社員が、JRの駅で使用される端末を操作し対応にあたります。

開局して1カ月の間には、連日県外からの利用客も多く訪れました。郵便局で風景印の押印や通帳への局名ゴム印の押印を求める人、また旅行に行くのに東京駅発の乗車券をわざわざ求めに来た人もいます。そして局の前に設置されているのは、かつて郵便物を運送していた“郵便・荷物電車”をイメージしたラッピングポストです。車両番号も再現されるなど鉄道マニアにはたまらないつくりとなっていて、人気の撮影スポットです。

江見駅郵便局の局内

ラッピングポスト

人気のスマホゲームとのコラボで話題のスポットに

江見郵便局から続投する形で江見駅郵便局の局長になった私は、実は大の鉄道ファン(オタク)でもあります。いわゆる“乗り鉄”で、友人たちと列車に乗って移動するのが休日の楽しみです。この度の駅との一体運営という全国初の取り組みを始めるにあたり、千葉県南部地区会では地方創生のための様々なアイディアを募集していました。そこで実際に鴨川まで来ていただき、ゆっくり楽しんでもらえるように、自ら様々な企画を立ち上げています。2020年9月30日スタートのスマホアプリ『駅メモ!』とのコラボレーションもその一つです。

『駅メモ!』はスマホの位置情報を利用し、“でんこ”という女の子のキャラクターをゲットしながら日本各地の駅を巡るゲームです。これまでのダウンロード数は100万を超え、“メモラー”と呼ばれるアクティブユーザーの数は10万人にのぼります。またキャラクターも150以上いて、ユーザー自身がイラストを描いたり同人でオリジナルグッズをつくったりするなど、メモラーの間で一大カルチャーが形成されています。江見駅郵便局ではおたよりを届ける“でんこ”である「友荷(ゆうに)なより」を応援特使に任命し、数々のイベントを催すことにしました。

メインは1年間限定で実施されるデジタルスタンプラリーです。江見駅と、周辺にある2カ所のポストをすべて回ると、「なより」の着せ替え画像を手に入れることができます。今回の応援特使任命を記念してつくられた、限定の衣裳です。さらに江見駅郵便局の窓口ではコンプリート画像を提示した先着2000名に、「なより」のポストカードを配布しています。局には「なより」の撮影パネルも設置され、メモラーたちは江見の地を訪れたいと、既にSNSでは話題になっています。

またキャンペーンの開始日である9月30日は、「なより」の誕生日でもあります。そこでバースデーカードを事前に募り、局内に掲示しています。応募者にはデジタルスタンプラリーとは別デザインのポストカードが、応募者に送ってもらった返信用封筒を使用し、さらに63円切手を添えて応募すれば、ポストカードには記念小型印を押して返送されます。ほかにもフレーム切手を発売するなど、まさに“友荷なより”ワールド全開の1年となる予定です。

郵便と鉄道は相性がよいように思いますので、それぞれのファンが新たな楽しみ方を見出してくれるでしょう。そして鴨川は観光のまちです。『駅メモ!』をきっかけに多くの方々に訪れていただくことで、まちの活力にもつながると期待しています。

郵便と駅機能が融合した江見駅郵便局は、これからの郵便局の在り方を考える貴重なモデルケースになると確信しています。地域の価値向上に向け取り組んでいる郵便局に、今後も注目してください。

新しい江見駅郵便局

開局式出席者と記念撮影