全特 2017年1月冬号
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経営のヒント経営コンサルタント 小宮 一慶 (こみや かずよし)3素直ということ 松下幸之助さんは、「人が成功するために一つだけ資質が必要だとすると、それは素直さだ」とおっしゃっています。 松下さんは、小学校四年生の途中までしか学校へ行けませんでした。また、松下さんは健康にも恵まれませんでした。九十四歳まで生きられましたが、「寿命と病弱は違う」というのが口癖だったそうです。よく松下病院から会社に通っておられました。 このように、学歴にも健康にも恵まれなかった松下さんが、一番気にかけておられたことは「素直かどうか」だったそうです。素直さは謙虚さに繋がります。素直であれば、人が言っていることを聞くことができ、人の知恵を活かすことができるということです。 逆に素直でない人は、人の知恵を活かせず、また人の話を聞けないので、人がそのうちに話をしてくれなくなり、協力もしてくれなくなると松下さんはおっしゃっています。 松下さんと親交が深かった、日本興業銀行の頭取をされていた中山素平さんが書かれていたのですが、「松下幸之助さんほど、人の話を聞くのが上手い人はいなかった」そうです。 人の話を聞くのは、意外に難しいのです。話す方はネタさえあればいくらでも話せます。しかし、聞くとなるとそうはいきません。相手の言っていることを、まず受け入れなければいけないため、忍耐力を必要とします。東洋哲学の大家である安岡正篤先生も、「聞く姿勢、聞く態度を見れば、その人物の練れ具合が分かる」とおっしゃったくらいです。 私もこれまで二〇〇〇回以上の講演をこなしてきましたが、聞いている人の姿を見て、大体その人がどれくらい素直かは読み取れるようになりました。 この中山素平さんの話には続きがあって、松下さんは新入社員の話を聞いても、「良い話を聞かせてもらって、有難う」と必ず言っていたと言うのです。 私はこのエピソードを読んだとき、二つのことに感心しました。 一つは、松下さんが「素直さ」をとても大事にされていたので、新入社員の話の中にも、人生やビジネスのヒントを得ることができたのでしょう。だから、「有難う」と素直におっしゃっていたのだろうと思います。 それからもう一つ、何よりも驚いたのは、松下幸之助さんが新入社員の話を聞いていた、という事実です。 小さな組織なら、新入社員の話を社長が聞くのは難しいことではありませんが、松下幸之助さんが社長をされていた当時の松下電器はグループ全体で十万人を超える社員を雇っていたはずです。松下さんが何か知りたいことがあり、そこらの副社長をつかまえて「あれはどうなっているんだ」と問えば、上へ下への大騒ぎになり、調べ上げてから持ってきたはずです。その松下さんが、新入社員の話をわざわざ聞いているという点が、二十世紀に日本で最も尊敬される経営者の所以なのです。成功する人は、自然に一歩の踏み込みができるのです。それも、やはり、素直さ、謙虚さがあってのことですね。経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。 1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、93年にはUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。94年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立。2014年、名古屋大学客員教授に就任。幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書100冊以上、累計発行部数は300万部を超える。近著は『ビジネスマンのための最新「数字力」養成講座』(ディスカヴァー)。25

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