ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2019年3月8日

粟生津郵便局(新潟県)

私塾跡につくられた、米どころの郵便局

日本有数の米の生産地、越後平野を擁する新潟県。そして平野のほぼ中央に位置する燕市にあるのが、粟生津(あおうづ)郵便局です。開局は大正4年(1915年)と、100年以上の歴史があります。明治の後期につくられた私塾「長善館(ちょうぜんかん)」の3代目館主が塾を閉館した後に、敷地内に開いたのが始まりでした。開局100周年を記念してつくられた風景印は、自局とゆかりのある長善館と稲穂がモチーフになっています。

現在の局舎は3代目で、瓦屋根がかわいらしい小さな平屋建て。築35年以上と、こちらも歴史のある建物です。今では珍しくなってしまった軒先の丸ポストが、訪れる人たちを迎え入れます。

住宅地が増えたとはいえ、やはり稲作が盛んな地域です。郵便局を利用される方々は農家の方も多く、収穫したお米をゆうパックで送ろうと大きな荷物を抱えて来局されます。季節を問わず「コシヒカリ」の箱で、小さな局内がいっぱいになることもあるそう。ふだんは局長と社員の二人がフル回転で切り盛りしています。

9つのゴム印で、旅行貯金者もリピーターに

粟生津郵便局は風景入通信日付印だけでなく、旅行貯金者向けの郵便貯金通帳へ押印するゴム印も特徴的です。「地域の魅力は何だろう…?」と考えているうちに、局名の脇に入れるモチーフ案がいくつも浮かぶことに。米どころならではの「稲穂」や「米俵」に、雪国らしい「雪だるま」、そして真夏に自局でも育てている「江戸あさがお」など、1つに絞ることはやめてひと通り採用しました。今では燕市内の各郵便局で採用しているゴム印も取り入れたため、9種類のゴム印が揃っています。

旅行貯金に訪れるお客さまの反応もそれぞれで、迷いながらもお気に入りを1つだけ選ぶ人もいれば、100円ずつ貯金してすべてのゴム印を押してもらう旅行貯金ファンも。またその時は1つだけ押してもらい、再び訪れるリピーターもいるといいます。数年越しの再会も珍しくなく、前回訪れた時の通帳を持って来ては旅の話を聞かせてくれるそうです。

地域の人の温もりが感じられるノベルティー

粟生津は小さな地区だけに、地域の人々との距離が近いのも粟生津郵便局の特徴です。絵手紙やハーバリウム(植物標本集)などの自分の作品を飾ってほしいと、局内のギャラリーには常にお客さまが持ち込んだ作品が飾られています。一方で展示物に興味を持つお客さまもいて、作家が主催する教室を紹介したり作品を販売したりと、郵便局が両者をつなぐ役割に一役買っています。また時には「趣味を生かしたい」と、郵便局のPRに手を挙げてくれる地域の人もいます。これまでに、和紙おりがみで作ったようじ入れやサボテンの鉢植え、江戸あさがおの種など、手づくりのノベルティーグッズが生まれました。

「お客さまの喜びが、次のお客さまの喜びへとつながったら嬉しい」と、局長は話します。

場の提供により人々がいっそうつながる

地域活動では小学校の登校時の見守りをはじめ、地元の自治会活動にも局長が精力的に参加。自治会では隣の地区との協力体制を築き、方言戦隊「メテオレンジャー」の一員として祭りや田植えなどのイベントに参加しています。他の地域の取り組みで得た経験は、地元での活動のヒントに。青年部で企画したプロジェクションマッピングのイベントでは局舎をライトアップしたり、防災イベントでは消防ポンプ車を駐車場に展示したりと、自局を使ってできることを積極的に取り入れているといいます。

「一つひとつのしかけは小さいものの、必ず何かしらの反応がある。郵便局が地域の人々をつなぐ場として機能していると実感する」と局長。大正、昭和、平成と、長きにわたり地域の情報発信源として地域に根ざしてきた粟生津郵便局。その存在感は、今後も増すばかりです。


(取材・執筆/たなべやすこ)