ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2020年1月10日

青谷勝部郵便局(鳥取県)

豊かな自然に囲まれた“ホタルの里の郵便局”

鳥取県鳥取市青谷町に位置する勝部地区は、農業が主体の山あいの集落です。清流と、豊かな自然に恵まれたこの地に、「ホタルの里の郵便局」として知られる青谷勝部郵便局があります。
特筆すべき名物はなかったという勝部地区で、ホタルを地区のシンボルにしようという機運が高まったのは平成6年のこと。ホタルは水がきれいなところしか生息できないことから、勝部地区の澄んだ水や空気を地域の魅力として発信することを目的とし、「勝部ホタルの里づくり協議会」が発足しました。発足当初の協議会は、ホタルの生態に関する講演会を開いたり、ホタルの写真コンテストを行ったりしていたということです。

次の転機は平成9年、青谷勝部郵便局に尾崎局長が就任したことです。尾崎局長の熱意もあって、勝部地区のホタルの里づくり活動が活発になりました。18歳で地元の勝部を一度離れた経験がある局長は、故郷の良さや自然の大切さを伝えたいという思いが強く、郵便局を拠点とした地域活性化の活動に熱心に取り組んだのです。
まず初めに、ホタルと滝の多い勝部の中でも一際美しい不動滝をあしらった風景印の作成に着手しました。風景印が完成した際には石碑を建立し、それがマスコミで報道され、ホタルの里としてのイメージが広がったことで、全国から風景印を押して欲しいという依頼が殺到しました。

地元の人々に愛されるホタルのモニュメント

局長は、その後もホタルの里づくりの活動を盛り上げるために、次々とアイデアを形にしていきます。写真コンテストの応募作品を元にしたポストカードを作成したり、局前にはステンレス製のホタルのモニュメントを設置しました。このモニュメントは草の葉にとまったホタルと、露がしたたり落ちる様子を表現したもので(平成11年鳥取県景観賞受賞)、今でもホタルの里・勝部のシンボルとして多くの人に愛されています。

さらに、地域の小学校で「ホタルの生態と飼育」という授業を行いました。また、局長自身が「勝部ホタルの里づくり協議会」の会長にも就任します。養殖に成功したホタルの幼虫を、局の前を流れる勝部川に放流したことも広く話題となりました。これまでの取り組みを振り返り、局長は「ホタルは1年のうちで6月から7月にかけての短い期間しか見ることができません。そのホタルを、年間を通して地域の魅力として発信していくためには、“点”で行っていた活動を“線”につなげる必要があったのです」と語ります。こうした取り組みの結果、県の内外にホタルの里としてのPRができ、勝部地区から発送する品には「ホタルの里からお届けします」といった特別な一言が添えられるようになったのです。

地域の防災拠点として活動

青谷勝部郵便局は、地域の防災拠点としての役割も担っています。因幡地区会では15年前から局長が率先して防災士の資格を取得し、地域の防災活動に貢献することを推進しており、その時に尾崎局長も資格を取得しました。まだ防災士という資格に対する認知も低い時代のことです。しかし、近年は毎年のように大型の台風が襲来し、各地で災害を引き起こす中で、防災士に対する期待も高まっています。

防災士の資格は、取得しただけでは地域の人々に「郵便局に防災のスペシャリストがいること」が伝わりません。そこで、局舎に“防災士のいる郵便局”というオリジナル・ステッカーを貼り、認知を促しています。実際に、それを見たお客さまから防災の相談を持ちかけられることもあるそうです。近年では、防災に関する講演の実施、家具の転倒防止事業、県の防災フェスタ運営への参画、カエルキャラバンという子どもを対象とした啓発活動など、防災への取り組みの幅を広げています。

ホタルの里を中心地として、また防災の拠点として、青谷勝部郵便局には自然と人が集まってきます。山あいの小さな郵便局は、地元の人にとってなくてはならない大切な場所なのです。


(取材・執筆/井戸沼尚也)