ユニークな郵便局大集合

日本全国の変わった郵便局、面白い取り組みを行っている郵便局をご紹介します。

2021年1月8日

滝野河高郵便局(兵庫県)

子どもとのつながりに力を入れる郵便局

兵庫県のほぼ中央を流れる加古川は、江戸時代には物流を支えるまちの動脈でした。その加古川のすぐ近くで73年の歴史を誇るのが、加東市にある滝野河高(たきのこうたか)郵便局です。終戦の翌年、現在の局長のおじい様が、銀行を勤め上げた後、縁あって開局が承認されたのがルーツだといいます。

郵便局のある滝野町は、2005年に加東市になるまで人口12000人ほどの小さな町でした。毎年2月に行われる厄除け祭では、まちに住む厄年の人が餅と一緒に小銭を撒くしきたりが今でも残っています。撒かれたお金を拾うことができるのは、子どもの特権です。拾ったお金は大事に貯金をしようと、子どもたちが小銭を抱えて郵便局にやって来ます。
滝野河高郵便局では、郵便局のことをもっと知ってもらおうと、子どもたちとのつながりづくりに力を入れています。特に郵便局のすぐ近くにある保育園とは、長年にわたり親密な関係を築き上げています。

保育園児の作品が局内を明るく演出

局長の子どもがその保育園に通っていたことがきっかけで、子どもの送り迎えのために保育園を訪れるたび、局長は子どもたちの描いた絵や工作を眺めるのが楽しみでした。そしてあるとき、これらの作品を郵便局に飾るアイデアがひらめきます。ちょうどその頃、局内の掲示物が画一的で、今ひとつ面白みに欠けると感じていたからです。局長自身も同じ保育園の卒園生で、また当時の同級生が園長を務めていたことから、思いきって相談すると二つ返事で話はすぐにまとまりました。
それからというもの、郵便局の掲示板の一画には園児たちの作品が飾られるようになりました。内容はおよそ2カ月ごとに変わり、1年で5,6作品が展示されます。子どもの日にはこいのぼり、ハロウィンにはカボチャのアートと、季節のイベントに合わせた作品が並びます。どのような作品を展示するかは保育園で考えていて、子どもの足跡を使ったものなど、ユニークなものが持ち込まれることもあります。

取材をした11月中旬、掲示板には既にクリスマスの作品が飾られていました。綿の雪が降り積もる台紙の上に、画用紙でつくったクリスマスブーツのオーナメントが飾りつけられています。ブーツの履き口からは愛らしいトナカイが顔を出しています。
また、それぞれのブーツにはサンタさんにあてたプレゼントのリクエストが貼られています。

色づかいがカラフルで力強く、そして個性いっぱいの作品は、何度見ても飽きることがありません。また展示を通じ、子どもたちの成長を感じ取れる面白さもあります。
また、作品たちは郵便局に訪れるお客さまの心を和ませてくれます。保育園に通う園児や保護者も、一生懸命つくった作品が多くの人の目に触れることは嬉しいものです。園児のおじいちゃんやおばあちゃんも郵便局に足を運び、展示を嬉しそうに眺めていくそうです。

大きくなったら郵便局ではたらきたい!

園児たちの作品が飾られるようになったことで、保育園にとっても郵便局は身近な存在となりました。日中の散歩時間は、公園に向かう途中で郵便局に立ち寄るのが定番のコースです。飾られた作品を見たり郵便局の社員たちと交流したりと、園児たちの貴重な社会経験になっています。10月のハロウィンシーズンには、90人を超える仮装した園児がこぞって郵便局にやって来ます。元気いっぱいな声で「トリック・オア・トリート!」と叫ぶと、局長たちは小さなお化けや魔法使いにお菓子を配るのが恒例です。
また郵便局の見学会を行うこともあります。切手の仕組みを局長が説明したり、保育士さんが通帳を使って貯金を実演したり、子どもたちにとっては初めての光景です。

「訪れた人を笑顔に」を合言葉に、あえてマニュアルをつくらず社員一人ひとりが自分なりに考えながら接客を行う滝野河高郵便局では、郵便局が地域に暮らす方々に歩み寄ることを心がけています。メールやSNSなどのデジタルツールによるコミュニケーションが一般化してはがきや手紙に触れる機会が限られていることもあり、郵便に触れる機会を子どもの頃から意識的に増やしていくのが大切だと考えているからです。
滝野河高郵便局の取組みは、子どもたちの心を動かし始めています。ある園児が「大きくなったら郵便局ではたらきたい!」と言ってくれたことは、“夢を売る仕事”と自負する局長と社員にとって大きな誇りです。

地域社会に無くてはならない、一人ひとりの人生に寄り添う存在でありたい。この思いを胸に、滝野河高郵便局では、今日もお散歩する園児たちを笑顔で迎えています。


(取材・執筆/たなべやすこ)